2008.09.09
旧小説板のYUJ氏のポケダン小説ログ
ちょっとサーバーから出てきたので張っておきます。
■題名 : MY WISH
■名前 : YUJ
■日付 : 07/11/30(金) 23:23
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初めまして。とはいってもFREEPAGEさんはよくご存知でしょうが。
この掲示板の復活を要望した某氏です。早速使わせていただきますよ。
話は、『ポケモン不思議のダンジョン』と似た系統のものと思っていただければ。
ただ設定等は完全にオリジナルになるので、頑張って読み取ってください。
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■題名 : Chapter:1「夜空の遭遇」
■名前 : YUJ
■日付 : 07/12/1(土) 0:04
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波が海岸を浸し、深く入り込んでは引いていく。
押し寄せる波の音は耳元で響いているはずなのに、やたら遠くに聞こえる・・
体が重い。
それに、やけに冷たい。指一本も動かせない。
頭の中が空に浮かぶ雲みたいに真っ白になっている。何も思い出せない。
目の前では波が押し寄せたり引いていったりを繰り返している。
ただ、目が霞んでその様子がはっきり見えない。視界に映るもの全てがぼやけている。
(私は・・誰・・?)
そう自分に問いただすと、たった二つだけだけれど・・記憶の海から蘇ってきた。
私の名前は、ノゾミ。そして・・人間なんだ。
(けど・・それ以外、何も分からない・・)
・・・・ここは、どこ?
どうして・・私は、ここにいるの?
「・・・・!・・・おい!・・・・きろ!」
ぼんやりと何も考えず波に見入っていると、急に誰かの声が聞こえてきた。
言葉を返すのも億劫なので黙っていると、ゆさゆさと体を激しく揺さぶられる。
「・・起きろってば!」
ノゾミが重い頭をもたげ、自分を揺さぶる者のほうを向いた。
遥か高くに見える満月の夜空をブースターの顔が遮っていた。
「よ、よかった!目が覚めたか!」
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■題名 : Chapter:1「夜空の遭遇」
■名前 : YUJ
■日付 : 07/12/4(火) 19:07
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その後のことはよく覚えていない。
半分眠って半分起きているような感じがしばらく続いた後、ノゾミは藁でできたベッドに寝かされた。
傍でぱちぱちと薪が火を上げているのが聞こえてきた。赤い光と熱とが、氷のように冷え切ったノゾミの体を温める。
体が、重い。
まるで、私の体じゃないみたいに・・
「お前・・ピカチュウ、だよな?どうしてあんなところで?」
さっき助けてくれたブースターの声が、またやたらと遠くに聞こえる。
ノゾミは朦朧とした意識の中、彼の言葉の中の一単語を心の中で繰り返した。
・・・・ピカチュウ?
ピカチュウといえば、黄色い体に赤い頬がチャームポイントのねずみポケモン。
けど、真っ白な頭の中に残っている。白い半紙に墨を一滴垂らしたように、はっきりと。
私、人間だよ・・?
言葉を出そうとしても、言葉にならない。
重い腕を懸命に持ち上げ、覗いてみた。そこにあったのは、人間のものとは程遠い黄色くて小さな指先。
そして・・無造作に投げ出されている、稲妻型の尻尾も見えた。
確かに、ピカチュウの体。
まだ上手く働かない頭の中に、無数のクエスチョンマークが駆け巡った。
あれ?
・・・私、人間だったはずじゃあ・・?
疑問と、自分のたった一つの記憶を否定されたという・・不安。
二つの波が心という海を激しく揺さぶった。まだ頭の中が全然整理できていないのに。
人間であることが否定されてしまった以上、ノゾミに残っているのは、『ノゾミ』という名前だけ。
「ごめん。答えられるわけないよな。
とにかく今は休めよ。話なら後で聞かせてくれればいいからさ」
その言葉が聞こえたのを最後に、ノゾミの意識は遠のいていった。
全てが闇の中に溶けていく。頭上に見える石の天井が暗い渦に巻き込まれ・・ノゾミは、深い眠りの中に落ちていった。
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■題名 : Chapter:1「夜空の遭遇」
■名前 : YUJ
■日付 : 07/12/10(月) 21:50
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巣穴に差し込む暖かな光に揺り起こされ、ノゾミはゆっくりと体を起こした。
まだ体には痛みが残っているが、意識すらはっきりしなかった昨日に比べれば遥かにマシだ。
巣穴に残っているのは自分1人・・いや、1匹のみ。助けてくれたブースターの姿は見えなかった。
「・・・あれ・・?」
真っ白になった木の灰が燻り、かすかに煙を上げている。
まだ何も分からない。自分はかつて人間で、今はポケモンで・・なのに、人間だった頃のことを思い出せない。
どうしてピカチュウの姿になってしまったのか、どうして人間でなくなってしまったのか、何も分からない。
それがさらに不安を生み、ノゾミは思わずいてもたってもいられなくなった。
とにかく、誰でもいい。誰か言葉を聞いてくれて、言葉を返してくれる者は・・
ブースターは巣穴の外にいた。
朝日を浴びながらノゾミが流れ着いてきた海岸沿いに立ち、水平線から頭を出し始めている大きな光を見つめている。
「・・・」
胸から垂れ下がるふわふわした毛の中に、蒼藍の海をそのまま流し込んだような美しい水晶玉が埋まっていた。
透き通った表面越しに見える、渦巻く光の奔流。ずっと眺めていると、魂を吸い込まれてしまいそうになる。
「・・・また朝が来たよ、しらゆき姉ちゃん」
ブースターがそう悲しげに呟くと、玉の中の光の渦が微妙に乱れ、形を崩した。
「きっといつか見つけ出す・・だから」
誰に言うともなく独り言を言い続けるブースター。そんな彼に向かい、どこからか野太い声が響いてきた。
「何をぶつぶつ言ってやがる、小僧?」
「・・・・?」
声は海岸の岩場のほうから聞こえてきた。そちらへ視線を移すと、波と岩の狭間から紫色のにょろにょろした体が這い出してくるのが見えた。
海岸の砂にまみれながら、2匹のアーボがブースターの元へ迫ってくる。
「なんだよ、またお前達か」
「へへぇ・・俺達の顔も覚えてくれたらしいなぁ。なら、俺達の用件も分かってんだろ?」
2匹の淀んだ琥珀色の瞳から、彼が抱えている碧い水晶玉へと視線が集中する。
ブースターの悲しげな瞳に、突然ちらりと赤い炎がゆらめいた。
「そうだとも。そこまで分かってるなら、俺の答えだって分かってるだろ?
・・・これを渡す気なんてさらさらないぜ。とっとと帰れ」
「ケケケ、何を勘違いしてやがる?お前はもともと断れる立場じゃねえのさ、小僧。
さっさと渡したほうが身のためじゃねえのかぁ?これ以上意地を張ったって、ジャガン様のお怒りに触れるだけだぜ」
「そうだとも。まさかジャガン様の名を知らねえわけでもなし・・
・・とっとと渡さねえと、盗られるのは玉だけじゃ済まなくなるぜ。そんな石コロ一つのために死にたかぁねえはずだ」
無遠慮にずけずけと言い放つアーボ達に対し、ブースターはギラリと瞳を光らせた。
はっきりとした激怒の色を、その大きな黒い瞳にほどばしらせて。
「この石はそこらの石コロとは訳が違うんだ。・・誰が、お前達みたいな奴らに渡すか!!」
アーボが彼の咆哮に怯んだ瞬間、毛にくるまれた水晶玉が眩い光を放った。
「・・・・・!」
ノゾミが巣穴から頭を出した。どうやらここは海岸沿いの洞窟だったらしい。
遠くに3匹のポケモンが並び、対峙しているのが小さく見える。そして・・
信じられない光景が、目の前に広がった。
ブースターの赤とクリームの毛が見る見るうちに色を変えていき、桃色の絹のようなビロードへと変わっていった。
そしてふわふわしていた毛皮が瞬く間に滑らかな流れを生み出し、尾がすらりと伸びて先端で二つに枝分かれする。
水晶玉から放たれる光に包まれ・・ブースターは、エーフィへと姿を変えた。
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■題名 : Chapter:1「夜空の遭遇」
■名前 : YUJ
■日付 : 08/1/12(土) 18:11
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「え・・!?」
海岸を下のほうに見下ろすことの出来る、小高い崖の上。
そこがあのブースターの巣穴だった。海岸方向へと突き出した岩の縁に立ち、ノゾミが事の成り行きを見守っている。
ブースターが、エーフィになった・・!?
ただでさえ混乱している頭の中がますます混ぜっ返され、思わず腰を抜かしてしまいそうになる。
有り得ない。考えられない。ブースターとエーフィは共にイーブイの進化系であるというだけで、全く別の種族。
イーブイからエーフィへ進化するなら何も疑問など覚えないが、既に進化を終えた筈のブースターがエーフィに変身できるわけがない。
「ど、どうして!?」
驚愕するアーボ2匹を尻目に、ブースター・・いや、エーフィは平然と構えたままでいた。
「何をビビってるんだ?さっきのは単なるこけ脅しだったってわけかい?」
アーボの視線は自然とエーフィの足元へと向かっていった。美しい光の螺旋を閉じ込めた水晶玉が、エーフィの体を包むように光を放ち続けている。
「・・面白いトリックを使うじゃねえか。お前、一体何をした?」
「何か特別なことをしたわけじゃないさ。言っておくけど、これは幻でもなんでもないぞ」
そう言い放った瞬間、エーフィの額の赤い宝石が眩い光を放った。
ほどばしる鮮血のように、赤い光の束がアーボの全身を射抜く。形のない力が見えないロープとなって、ぎりぎりと激しく締め上げ始めた。
アーボはかすかに苦悶の声を漏らした。叫ぼうと思っても声にならない。頭の天辺から尾の先端まで、隙間なく捻じ切られてしまいそうなほどの痛みが走り続ける。
「・・・!?」
「ぁ・・が・・っ!!」
苦しみのうちにアーボの体は空中へと浮かび上がっていった。まるで、見ることのできない巨大な手に掴まれ、持ち上げられていくかのように。
全身を痙攣させ、目を血走らせながら悶え全身を捻らせるアーボ。エスパータイプの技、『サイコキネシス』だ。
(ぐ・・こ、こいつ!)
この技を実際に浴び、半信半疑だったアーボ達も目の前で起こったことを信じざるを得なくなってしまった。
この技は紛れもなくエーフィの技。もし目の前で起きたことが幻なら、ブースターが『サイコキネシス』など使えるわけもない。
やがて、額の宝石から光が消え失せていった。それと同時に、アーボ2匹の体が砂浜に叩きつけられる。
まだ生々しく残る痛みに体を引き攣らせる2匹を見下ろし、エーフィは溜め息をついた。
「これで分かっただろ?これ以上痛めつけられたくなきゃもう来るな。
お前達のご主人様とやらにも知らせておけ!『俺は絶対にこれを渡す気なんてない』ってな!」
そのままエーフィは体を翻し、巣穴のほうへと戻っていった。
やがて彼が抱えていた宝石が急速に光を失っていき、エーフィの体から離れていった。それに比例して、体がもとのブースターのものへと戻っていく。
恨めしげなアーボの視線が、ブースターの背中を空しく睨みつけていた。
「・・・あなたは、一体・・?」
巣穴へと続く石の段差を登ってくるブースターの姿を眺めながら、ノゾミは呟いた。
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